
あなたは仕事で英語の契約書に触れる機会がありますか。契約交渉は海外ビジネスの重要な要素の一つです。
今回のブログでは英語での契約交渉実務で役立つポイントについてご紹介します。
英語での契約交渉について:はじめに
私は新人時代から5年間、航空機リースというビジネスを担当してました。そこで英語での契約交渉の経験を多く積むことができました。
10年以上にもわたる期間の取引の契約です。リース契約書は150ページ分くらいありました。
それを全部読んで、弁護士と相談しながら契約交渉を進めるのです。交渉相手もタフなことが多く、3日間膝詰めで交渉して進展しないこともありました。
それでも、契約書は人任せにせず、自分で理解することが重要です。弁護士任せはいけません。
読まなければいけない大量の英語と、一見難解な文章に嫌気がさすのはわかります。しかし、その業務を行うことで確実に自身のスキルアップとなります。
このブログを参考に、あなたも多くの交渉経験を積んでいってもらえらばと思います。
知っているだけでOK!契約交渉でよく使う言葉

Clauseという言葉
Clauseとは条項という意味です。日本語の契約書では第X条第Y項のZ、のような言い方をします。それに対して英語ではClause X.Y(Z)と表記します。
交渉で該当する条項を指すときはこの表現を使ってください。私は英語での表記の方がシンプルでわかりやすいと感じます。
ClauseのかわりにSectionとするのもアリです。
条文はLanguageと呼ぼう
交渉では契約文言をどうするかのやり取りを行います。その際、文言のことを”Language”もしくは”Wording”と言います。
例えば、
I would like to suggest the language of clause X.Y(Z) as follows~
などのように言って修正文言を提案します。
私はLanguageと聞くとフランス語やスペイン語といった言語を想像していました。なので、このような使い方は新鮮に感じたのを覚えています。
LanguageのかわりにWordingと言うこともあります。Change the wording of ~のような言い方になります。
こういう表現がパッとできると、交渉担当者としてかっこいいなと思います。
Carve out = 但し書き
Carve out languageという言葉を使うことがあります。日本語の契約書でいう但し書きのことですね。
ある条件を定めたときに、その例外とするものを決める。それをカーブアウトすると言います。
カーブアウト条項には気をつけておく必要があります。
契約条件が適用されると思っていたのに、ある場合では相手方の義務が免除される規定となっていた!
という状況にならないよう、Carve out languageは要注意と覚えてください。
Gross negligenceはほとんど証明不可能

Willful misconductとGross negligenceという言葉があります。前者は故意の契約違反行為、後者は重過失を指します。
過失というのは期せずして引き起こしてしまった違反行為です。
これらの違反行為について、契約上は相手方に大きな責任が生じるよう定められます。しかし、実際には事故が起きた場合でも相手に責任を負わせるのは簡単ではありません。
相手方のGross negligenceを証明しようとすると、膨大な法的手続きが必要になります。これは、アメリカの法律ではDiscovery processと呼ばれています。相手の責任を証明するために、過去の一切の資料を掘り起こすのです。
その膨大なプロセスを進めるにも、弁護士費用がかかります。その上で、裁判に勝たなければなりません。そして裁判に勝ったとして、相手から賠償金を得られるかもわかりません。望む賠償額と認められる金額も異なる可能性があります。
こういったことを考えると、結局裁判よりも示談する方が良いという結論になります。
私も仕事で、どう考えても相手の責任による損害を被ったことがありました。しかし、裁判でそれを証明する手間が膨大だったのです。
結局弁護士からのアドバイスを踏まえて、示談となりました。その時は相手から賠償してもらうどころか、こちらから示談金を払う羽目になりました。NY法での契約書の話でしたが、苦い経験です。
MAC条項?
マック条項と呼ばれます。Material adverse changeの略です。
これは日本語で言うと不可抗力事由ですね。自然災害、戦争や疫病といった理由で契約義務を履行できなかった場合を指します。
どこまでが不可抗力事由かは交渉の余地があります。例えば景気が悪くなるのは不可抗力です。しかし、それを MACとして契約を取り消すのはいかがでしょうか。
大抵の場合は受け入れられないと思います。
しかし、新型コロナの際にはMAC条項が効力を発揮した場面もあったでしょう。特に私が昔仕事をしていた航空業界ではそれが顕著でした。
飛行機が飛べなくなり、航空会社は飛行機のリース料を支払えなくなりました。義務を免除される訳ではありませんが、多くのリース会社が支援したと思います。支援とは、支払い義務の先延ばしを認めるといったことです。
契約はあくまで書類上の約束事です。現実世界では契約書で取り決めた事項を元に、お互いに対応を協議します。契約で決めたからといって、何もせずに物事が片付くということはありません。
契約とはお互いが約束したことを忘れずにいるための道具に過ぎないということです。
Event of defaultとIndemnification
Defaultとは債務不履行のことを指します。日本語でデフォルトと聞いてイメージするものとは違う印象ですよね。
そしてEvent of defaultという条項は契約書の中で最も重要な箇所と言えます。相手が義務を果たさなかった場合の権利を規定する条項です。
Indemnificationとは補償という意味です。こちら側が損害を被った時に相手が補償するべき内容を定めています。なので、Event of defaultとIndemnificationの条項はセットで重要です。契約書をレビューする際も良く確認してください。
約束通りお互いが振る舞えば契約書は必要ありません。しかし、必ずそうはいかない時があります。その時に備えてお互いがきちんと協議できるように契約書が存在します。
お互いが約束したことを忘れないようにしておくこと。そして万が一が起こった時にはその約束に従って行動すること。
契約書があることでお互いに無用な紛争を避けることができるのです。
CP、レプワラ
CPとはCondition precedentの略です。「シーピー」という言葉を聞いたらこれを思い出してください。
そして、「レプワラ」とはRepresentation and warrantyの略です。日本語で表明保証と言います。
いずれも、契約書の前半部分で規定されることが多いです。なぜなら、契約書が効力を発揮する上での前提条件となるからです。
CP条項では契約を締結する上で事前に満たすべき条件を定めます。会社の謄本や定款といった書類をあらかじめ提出することなどを決めることが多いです。契約の相手方が合法的に存在し、義務を履行する能力を証明するためのものです。
レプワラ条項では、契約する上で法的、金銭的、能力的に問題が無いことを保証します。相手に対して、自分はこの契約をきちんと守れますよ、ということを約束するのです。
英語の契約書では反社条項はあまり見かけない
例えば、日本特有の条文として反社会的勢力に関するレプワラがあります。自分が反社でなく、また反社との取引もないことを保証するのです。
反社条項は日本に独特のもので、外国の契約書で見かけることはありません。しかし、会社の規定で全ての契約書に反社条項を含めることもあると思います。海外の取引先も、きちんとしたところであればもちろん反社などには該当しません。なので、反社関係のレプワラで揉めることは基本的にはありません。
しかし、よくわからない余計な表明保証はしないというポリシーの会社もあります。そういう時はケースバイケースで対応してください。
結論
契約交渉ではClause、Language、Carve outといった言葉を良く使います。覚えておくと便利です。
Gross negligenceは100%相手の責任です。しかし、それを法的に証明することは実はすごく難しいんです。契約上はお守り程度に思っておいてください。
MAC条項は不可抗力事由について定めています。英語ではMaterial adverse changeと言います。全ての契約書に含まれる程、一般的なものです。
Event of deafultとIndemnificationの条項は密接に関係します。相手方の契約不履行の際の権利を定めたものです。契約書では最重要箇所と言えるので、よく確認しましょう。
CPは契約書が効力を発揮する上での前提条件です。レプワラは契約を締結する上で相手方に対して自分の正当性を保証するためのものです。
今回は英語での契約交渉に焦点を当ててポイントをご紹介しました。英語の契約書は読むのが大変ですが、実力アップにはとても良い機会です。弁護士に丸投げするのではなく、あなたがしっかりと読んでください。そしてわからないところがあれば弁護士とよく相談してください。
それを繰り返せば、あなたは海外人材として仕事を任せられる存在になります。海外の取引先と堂々と交渉できる人材は多くありません。
英語で仕事ができる人材になるために、私の過去のブログも参照してみてください。
このブログがあなたが海外人材として活躍する助けとなれば幸いです。
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